余白の過ごし方

料理がずっと“好き”だから
レシピに思いを馳せることこそが余白の時間

Vol.1 料理家 長谷川あかりさん

決められた予定や役割から、少し離れる時間。忙しい日々の中に生まれる余白にこそ、その人らしさがあらわれる。何をしているのか、何をしないのか。この連載では、さまざまな人の「余白の時間」のあり方を探ります。そしてそこから、見えてくるものとは?

長谷川あかりさん

料理家、管理栄養士。10歳から20歳までタレント・俳優として活躍後、大学で栄養学を学び、管理栄養士の資格を取得。SNSでのレシピ投稿で注目され、料理本出版のほか、レシピ開発なども手掛けるようになる。なじみのある食材で新しい味わいをつくり出すレシピは、「料理上手になった気分を味わえる」「自己肯定感があがる」「ありそうでなかった組み合わせ」として自炊初心者から料理好きまで、幅広く人気を集める。著書に『時間が足りない私たちの新定番「私、天才かも!」レシピ』(講談社刊)、『わたしが整う、ご自愛ごはん』(集英社刊)など多数。

長谷川あかりさんの余白のある1日

「ひとりの夜ごはんはスープでいい」「かけた手間以上の味」「22時のやさしいジャンク飯」——。料理に添えられた言葉とともに、「励まされる」「簡単なのにおいしくておしゃれ」と幅広い世代に支持されている長谷川あかりさん。テレビ・雑誌・書籍、SNSなど数々のメディアで“刺さるレシピ”を生み出し続けている今をときめく料理家です。まずは、そんな長谷川さんの、1日のスケジュールについて教えていただきました。長谷川さんにとっての「余白の時間」とは?

07:00

起床・入浴・掃除

朝はまず湯船につかって目を覚まし、豆乳とほうじ茶、はちみつ入りのラテを飲んで血糖値をあげて。

08:00

メイク・身支度

YouTubeやポッドキャストを流しながらメイクや身支度を。ここでもながら聴きで情報収集。

10:00

インタビュー・撮影

13:00

コーヒーブレイク

編集者やスタッフとおしゃべりタイム。最近のおいしいお店、手土産、流行ってる食材などの情報が自然に集まってくる。こういう時間が意外に大切。

15:00

カフェで読書

料理本から生活書、エッセイ、ファッション誌まで幅広く読む。ファッション誌のコピーや特集は、キャッチーで力強く、レシピタイトルや構成のヒントにもなる。

16:00

書店へ

17:30

買い物

セレクトショップで買い物。洋服や雑貨を手に取りながら、色や素材の組み合わせからインスピレーションを得ることも多い。

19:00

友人と夜ごはん

おいしいものをゆっくり味わいながら、ここでも会話の中から味の記憶やアイデアを得る。「こういう味があるんだ」という発見や、新しい素材の組み合わせの勉強になることも。

23:30

帰宅・お風呂

24:00

夫と会話、思考の整理

今日あったことや考えたことを夫に話すことで思考が整理する。この時間があると記憶の定着になる。

25:00

就寝

日々の小さなモヤモヤがレシピの種

幅広い世代の心を掴む、長谷川さんの数々のレシピはどこから生まれるのでしょうか。「自分の料理の中にあるモヤモヤや違和感に、自分なりの答えを出すためにレシピを考えているんです」と長谷川さんは話します。つまり、自分のためにつくったレシピが、結果としていつの間にか誰かを助けるものになっていたと感じているそうです。

「働きたいし、外食もしたい。けど節約もしたいし、健康管理や体型も気になる。そんな世代のモヤモヤに寄り添うレシピって、意外と世の中に少なかったのかもしれません。あっても“ファミリー向け”に紹介されていると、自分には合わないと感じてしまう。だったら自分の悩みに自分で応えるレシピをつくろうと。『おいしい』『好き』『楽しい』という、直感的な感覚を大事にしてきたことが、よかったのかもしれません。よく“自分をいたわる丁寧な暮らしをしている人”と思われるけれど、実際は私も悩める一人。私もそうなりたいと願う1人の人間なんです。」

レシピを考える時間こそが余白の時間

気になったことは徹底的に検索して調べるのが好きという長谷川さん。「検索が好きすぎてGoogle検索の最後まで行くほどです(笑)」。常にノートPCを持ち歩き、組み立てたレシピをメモしていくそう。

長谷川さんにとって、料理家という仕事は暮らしの延長。その中で「ひとりになれる時間=レシピを考える時間」でもあります。「カフェでレシピを考えるのが、私の余白時間」と言います。撮影や打ち合わせの最中にふと思った疑問や、友人との食事中に耳にした会話——。そんな時間にレシピの種があり、一人のときにじっくり考えるのです。

「高校生の頃から、素材の組み合わせを想像するのが好きでした。あの素材とこの素材を組み合わせたらどんな料理になるか……想像する時間がたまらなく好きなんです。つくるよりも食べるのが好きなので、“あの店の味”をどう再現するかを考えるのも楽しい。最短距離でその味に近づくにはどうしたらいいか、常に考えてしまいます。手に入りにくい食材はどう代用するかも含めて、一つのレシピを検索しているうちに、別のジャンルまで掘り下げてたり。考えるだけ考えて、満足してしまうこともしょっちゅうあります。」

そんなふうに思考の世界を漂う時間こそが、最高に自由だと話します。

誰かの食卓を思い描く時間

「レストランのメニューを読むだけでも深読みを楽しめちゃうタイプです」というほど、レシピを「読む」ことが好きな長谷川さん。世界各国の郷土料理も好きなので、旅行記やガイド本なども。「空想海外料理旅行を楽しみます」
食がテーマであれば、絵本、エッセイ、詩、紀行など、雑食に読む。「いろんな人が食の思い出を綴ったアンソロジーとかも好きですね」

レシピは「考える」だけでなく「読む」ことも、長谷川さんにとって大切な時間。時間があれば書店に足を運び、好きな料理家のレシピや世界の郷土料理の本を探すそうです。そこからさらに、食にまつわるエッセイを読んだり、料理が生まれた背景に思いを馳せたりすることも楽しみのひとつ。

「レシピの前後にある“場面”まで考えることが大事だと思うんです。同じ料理でも日常の一皿として紹介するのか、ちょっとしたごちそうとして提案するのかで伝わり方は変わってくる。『つくってみたい!』と思ってもらうには、ストーリーごと届けたい。そのために、どんな場面でどんな気持ちに寄り添うかを言葉で伝えるようにしています。」

だからこそ、誰かと囲んだ食卓の記憶や、そのときの気持ちを、長谷川さんは日々心にストックしているのです。

ミーハーな気持ちこそ、“好き”の証

長谷川さんの頭の中は、常にレシピのヒントであふれています。いわば「情報のデトックス」ではなく、「情報を情報で洗い流す」スタイル。

「とはいえ、情報とは距離を置いて眺めるようにしています。全部を受け止めているわけではありません。カフェでレシピを考えた後に、街をぶらぶらするのも好きですし、目から入る情報を摂取している感覚ですね。百貨店を巡って、各フロアで違うトレンドを眺めたり、可愛いものを見たり。レシピでいっぱいだった頭を空っぽにすることで、また新しいレシピの余白が生まれるんです。」

そうして余白をつくるからこそ、常に新鮮な気持ちで料理に向き合える。長谷川さんはその感覚を、「ミーハー」という言葉で表現します。

「ミーハーって、ともすると揶揄されがちだけど、新鮮に“好き”を保つためには、むしろ必要な感覚だと思うんです。いろんなものに心が動くからこそ、料理も楽しく続けられる。だから私はあえて、“料理好きなミーハー”でいたいと思っています。」

外を散歩するなら雰囲気のいい古い街並みや、緑のある遊歩道など「気のいいところを歩く」。散歩をするのは癒しというより、発見が楽しい。そしてひたすら歩いて甘味処やコーヒー屋さんで休憩するのも目的だそう。

そもそも1日の時間は、料理や家事だけのためにあるわけではありません。欲張りに1日をデザインしつつ、料理を楽しみ続けるためにも長谷川さんは「つくらない時間」を必要に感じていると言います。

「『料理が好きじゃない』と言う人ほど、頑張りすぎている気がするんです。私は料理以外のことも楽しみたいし、『つくらなきゃ』と思ったことがない。常に“ミーハーな気持ち”で、レシピだけに向き合う時間があるから、好きでいられるんだと思います。」

そして、ミーハーな気持ちを伝えたいからこそ、長谷川さんは言葉を尽くすのです。

「『できそう』『やってみたい』と思ってほしいから、料理のモチベーションにつながる言葉を伝えたいんです。そして一度つくったあと、その人なりのアレンジを加えられるように、レシピには余白を残すようにしています。100%の完成形を押し付けるのではなく80%くらいにとどめる。残りの20%で、自分の工夫を少しでも加えたら『自分の味になった』という満足感が残る。その小さな自信の積み重ねが、忙しい毎日のちょっとした生活の余白になると信じているんです。」

レシピを組み立てる、味を想像する、届けたい相手を思い浮かべる——。長谷川さんにとっての余白の時間は「何もしない時間」ではなく「考える楽しさ」でできていました。自身が味わった「おいしい」「楽しさ」に向かって、イメージの世界で自由に羽を広げるように。

それがそっと届くからこそ、私たちは長谷川さんのレシピに救われるのです。

長谷川あかりさんの余白時間のKEYWORD

  • 思考をめぐらせる時間が、自分だけの余白時間になる

    長谷川さんにとって、一人で思考し、想像を巡らせる時間は誰にも邪魔されない自由な時間。

  • 情報キャッチのアンテナは思考のスイッチになる

    人との対話、街歩き、読書——。長谷川さんの1日には、未知との遭遇のタイミングがあちこちに。それをキャッチすることでまた、思考の時間が生まれる。

  • 思考整理の時間を通じて、頭の中の余白が生まれる

    1日の終わり、夫との会話で思考整理をすることで1日に得た情報の取捨選択をしている。残すべき記憶だけが残り、そのことも余白につながっている。


ちょっとしたひと工夫で、余白を自分らしく。

忙しくカレンダーを埋める日々の中で、ふと自分を取り戻すきっかけになること。それは店先の鮮やかな野菜だったり、スワイプの合間にふと目に飛び込んできた、面白そうなレシピだったり。料理はやらなければならないタスクだけど、ちょっとした工夫次第で小さな息継ぎにだってなりうる。だしがコトコト煮える何気ない数分間も、小さな余白として心を休めてくれるかもしれません。 茅乃舎だしは煮出すだけで手軽にお料理できることで、おいしさで、忙しい日々をお手伝いしたいと思います。

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