人の思いや記憶がにじむ
1日の余韻のなかで読む「食の記憶」にまつわる本
Vol.2 あのとき、あの場所で。
茅乃舎では、「食の記憶」にまつわる本を少しずつ紹介します。台所や料理にかかわる——とりわけ、人の思いや記憶がにじむような作品を、ジャンルを問わず選んでいきます。1日の余韻のなかで読む一冊としてぜひ、どうぞ。
『お弁当の時間』
書店で嬉しくて「わあ!」と小さく声をあげてしまった。「お弁当の時間」の8年ぶりの新刊である。ANAグループ機内誌『翼の王国』の人気連載で、フライト中に読むお弁当の話は、本当に格別だ。大げさかもしれないが、地上はなかなか良いところだという気持ちになる。着陸がほんの少し、楽しみになる。
お弁当の話でありながら、さまざまな職業の人の暮らしを垣間見ることができるのが楽しい。たとえば千手観音さまを運ぶ仕事、ヤンバルクイナを語る自然保護官、走りながらおにぎりを頬張る消防士長の方、などなど。こんな仕事があって、こんな時間を生きているのだなあという感歎のきもち。そしてみんなお弁当を食べている。
そう、お弁当ごしに、人生を見ているのだ。お弁当を前にしたとき、人はちょっと無防備になるような気がする。背中をちょっと丸くかがめて、少しだけうつむいて、やさしい顔をしている。お弁当を食べている人から語られる暮らしや人生の話は、等身大で、味わい深い。
とくにいちばん最後が、チャーミングさがぎゅっと濃縮されていて大好きだ。大好きな卵焼きを、取っておいてほおばるような、そんな嬉しさがある。
『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』
がむしゃらに食べていた若い時期があった。経験が浅かったり、お金がなかったり、喧嘩したり、ドキドキして入った店で失敗したり。食欲を満たすことと、悲しみや怒りや喜びが、迷いなくつながっていた日々。
この本には上京したばかりの小原さんのそんな日常が綴られている。表題作の「唐揚げ弁当を食べないでください」。社会人1年目、サボることを覚えた小原さんがコンビニの唐揚げ弁当を「むさぼり食う」。しかもビルの隙間で。なんと大胆で、無鉄砲なことか。
小原さんの記憶にはいろんなものが詰め込まれた箱のように、鮮烈な思い出がバラバラと詰め込まれている。眠れない夜の映画館のチュロス。夜更けの「なか卯」で飲むビール。
ウーロンハイを飲みながらする宇宙の話。父が死ぬ1ヶ月目に家族で食べた回転寿司。苦々しくて、甘い。自分の記憶ではないのに、こういう時間が確かにあったという気持ちにさせられる。
小原さんのこのエッセイを「今」を並走してくれるものとして読んでもいいし、「過去」を思い出すものとして読んでもいい。年齢を重ねるほど、私たちは食べることをととのえていく。大人になった私たちは「唐揚げ弁当をここで食べるな」と注意されることはない(もしくは滅多にない)。それでもあの日に感じた、チリチリとした感情のくすぶりは、今も胸の内にある。
『すてきなあなたに 朝のミルクティー』
「すてきなあなたに」は1969年から連載が続く『暮しの手帖』誌の人気エッセイである。2013年以降に掲載したものから選りすぐりった愛蔵版。日々おきたこと、自分の目でみたこと、感じたことがさまざまな人の言葉でつづれられている。
陶器のティーポットでミルクティーを入れる。茶葉のこと、香りのこと、水のこと。「ささやかな、それでいて心に沁みてくる」ことがたくさん詰まっている。寒くなると活動が全く低下する筆者が待ち焦がれる「鍋焼きうどん日和」。からりと晴れた空の下で、ちいさな靴を洗う休日。高齢の母が、夜の庭で見つけてくれた茗荷。いろんな「すてきな」人たちの日々が、隣り合っている。ちょっとだけ修繕したり、光る部分を見つけたり、磨いたり、時にはぼんやり眺めることで、毎日は回っているのだと感じさせられる。
おいしいミルクティーなどを飲みながら、ゆっくり読みたい1冊。
いかがだったでしょうか?もし気になる本があったら、ぜひ手にとってみてくださいね。前回のVol.1の記事にも「早速買ってみました!」という感想をいただき、とても嬉しかったです。食べること、読むことなど、ご感想(アンケート)もお待ちしております。(編集部S)








