広沢京子さんに学ぶ、気持ちよい調理のひみつ「切る」

「いったい、何が違うのだろう?」と、いつも思っていました。

折々の会やインスタグラムなど、茅乃舎のコンテンツでいつもお世話になっている、料理家の広沢京子さん。たびたびそばで作業のようすを見ていると、私たちの所作とは何かがどこか違う。手際はいいけれど、動きや音はいたって控えめで、ことさら急いでいるふうもなく、のびのびと料理をしているように見えます。なのに仕上がりはすこぶる早く、いたってきれいなのです。

そんな「なぜ?」に迫る、新連載がスタートします。気持ちいい調理のコツや心がけなど、レシピでは伝えきれないあれこれを、コラムとインスタライブの両方でお届けします。

広沢さんの所作にあやかろうと、私たちも張り切っていますよ。

毎回テーマを決めてお伝えしていきますが、第一回目は「切る」について。編集部の悩みを広沢さんに投げかけ、答えていただくかたちで進めていきました。

切ったあとの居場所を用意しておく。

はじめの第一歩は、セッティングです。

「さぁ、材料切ろう!と、いろんな野菜をがさごそ出し、なしくずし的にそのまま切り始めてしまうからか、まな板の上やそのまわりが散らかってしまう」というお悩み。

「そうだなー」とまるっこい声で、広沢さんは答えてくれます。

「私は切ったものをまな板の上に置きっぱなしにしないよう、あらかじめ場所を用意しておくかもですね」

トレイでも、ボウルでも、バットでも。切った食材、また皮やヘタなどを入れておく場所を、それぞれまな板のまわりに準備しておきます。

「入れるタイミングが同じなら一緒にしてもいいけれど、できるだけひとつの食材にひとつあると理想。洗いものが面倒、という人もいますが、油ものでもないのでさっと洗えますし、散らかった後片付けのことを考えると、結局はラクなんですよねー」

「キッチンが狭くてスペースがとれないわ」という人は?「トレイではなく、ふた付きの容器にして、切ったものを重ねておくと省スペースになりますよ」

そして、ふきんは必ず2枚用意して。「ずれないようにまな板の下にかませる用と、ひとつの食材が切り終わったあと、まな板の水気や汚れを拭く用。この『さっと拭く』を意外としてない人が多いかも」

ひとつの食材を切ったら、居場所に入れて、そのつど拭いて、次の食材を切る。そう、きちんとリズムをつけていくことが大切なんですね。なるほど!

全部を使い切らなくてもいい。

そして、いよいよ切り方に移ります。「きれいに切りたくても、食材によって大きさやかたちはまちまち。均等に、スムーズに切るにはどうすれば?」という質問には、

「全部を必ず使い切らなきゃ、と思わなくたっていいんです」

と、目からウロコの発言が!

「たとえばにんじんをピーラーで薄切りにする場合、どうしても手に持った根っこの部分が残ってしまいますよね」

これをむりやり使い切ろうとしなくても、別扱いにしてみじん切りにする、とか。

あとパプリカをきれいに千切りにしたい場合も、わたを取り除いて、くるっとしてるはしっこの部分を先に切り落としてから千切りにすると、きれいに揃いますよ。残りは同じくみじん切りに」


「みじん切りにした分は、同じ料理に使わなくてもいい。次の日の朝ごはんの卵焼きに入れてもいいし、チキンライスやスープに入れてもいいわけで。要は、どういう仕上げにしたいか、がけっこう大事で」

それは、すべてに通じる広沢さんの考えのようです。

「きれいに揃えたいならこのやり方がいいけれど、ちゃちゃっと炒め物をつくるなら、そのまま切ってもいいし。こうじゃなきゃ、というのは全然ないので」

玉ねぎのみじん切りは、縦横に切り込みを入れてから。

ここからは、いろんな食材の「気持ちよく、きれいに切る」コツを教えていただきました。

まずは玉ねぎのみじん切り。

「まず半分に切って。縦と横にそれぞれ切り込みを入れてからスライスする。包丁で叩いて切るのは最後の仕上げだけくらいにしておくと、バラバラとなりにくいですね」


また縦横の切り込みはそこまで深くしなくてもいい、とも広沢さんは言います。

「最後のへんまで来たら、倒してもう一度切り込みを入れればいいですし、なんなら3回目をやってもいい。いっぺんにしようと思わなくてもいいんです」

よくテレビに出てくるシェフたちのすご腕を見ているからか、つい「速く切るのが正解」と思いがち。

「ゆっくりでもいいから、ていねいに。そのほうが、結果早い気がします」

まさに「急がば回れ」ですね。先生、わかりました!

にんにくのみじん切りは、ペティナイフを使って。

さらに、にんにくのみじん切り。

「これも玉ねぎと同じ要領。ただ小さいナイフを使って、刃先から引くようにして切るとやりやすいかも。ちなみに私は刃渡り9cmのペティナイフを使ってます」

パセリのみじん切りは、キッチンペーパーを敷いて。

そして、パセリのみじん切り。

「キッチンペーパーを2重に敷いておくと、水分を吸い取れる上、ペーパーまで切れず、まな板にもくっつきません。ちなみに茎は固いので必ず別扱いにしておいて」

柑橘は、包丁で皮を削ぐように切る。

お次は、広沢さんが「ホテルでアルバイトしていた時に身に付けた」という秘伝?柑橘の実だけを残す切り方です。

「ヘタを切って安定させて、外と中の皮を削ぐように切ってから、中の皮と皮の間に切り込みをいれて切ります。むくよりもこっちのほうがきれいで簡単にできますよ」

にんじんの千切りは、薄切りを重ねて。

最後に、何かと面倒なイメージのある、にんじんの千切りです。

「まず縦横半分に切って短冊状の薄切りにしてから、トランプのように重ねて切ります」

「こうして切ってる時は“無”の状態。私にとって千切りは、瞑想のようなものかも」

なんと!「千切りは瞑想」という名言をいただきましたよ。ありがとうございます!

「どう切るか」は「どう食べたいか」から。

ここからは、実践編。料理によって、食材をどう切り分けるか。これも悩んじゃいませんか?

「私はどう切るかより、どう食べたいか、から考えますね」

たとえばにんじんを使って、サラダをつくるとき。「どの切り方がいいとかじゃなくて、歯ごたえを残したいなら繊維に沿って薄く切ってから千切りにするし、しんなりとした感じが好きなら、繊維に沿ってピーラーで薄切りにします」

そして、ミネストローネスープをつくるときには?「コロコロとした食感を楽しみたいから、さいの目切りにします。

そのとき、他の食材も揃ってるほうが火が通るのが均一で、見栄えもきれいっていうのもあるけど、口に入れた時の食べ心地もいいですよね」

私たちが「おいしいなぁ」と感じる大きな要素のひとつが「食感」です。「シャキシャキなのか、サクサクなのか。私は食べる時の音を思い浮かべながら、切り方を考えることが多いかも」


どう切るか。答えのむこう側にあるのは「食べ手を想う気持ち」なのかもしれません。「食材や季節、体調や気分など。どんな人と、どんなふうに食べたいかを、ちゃんと考える。するとイメージできることも、あるような気がするんです」


ほら、あたたかできれいなテーブルができましたよ。では、いただきます!


そして、インスタライブでは広沢さんに写真のスープとサラダをつくっていただきながら、「気持ちよい調理のひみつ」を教えていただきます。
みなさんが「気持ちよく調理するため」に広沢さんに質問したいこと、ぜひ教えてください。インスタライブの中でお答えできればと思っています。

【アーカイブ】広沢京子さんに教わる、気持ちよく「切る」ひみつ|4.15(土)開催

今回作っていただいた「春のミネストローネスープ」「人参と柑橘のサラダ」のつくり方も、ページ内でご紹介していますので、ぜひご覧ください。

開催日時
2023年4月15日(土)16:30〜
茅乃舎公式インスタグラム(@kayanoya.official)にて

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