「御料理 茅乃舎」の土鍋がつくられる場所・安楽窯へ

福岡・久山の山里に佇む「御料理 茅乃舎」。かやぶき屋根のその料理店は、茅乃舎のすべてのはじまりの場所です。

その「御料理 茅乃舎」で平成17年の開業以来、変わらず使われてきた土鍋があります。

ひとつは名物「十穀鍋」のために考案した浅めの土鍋。もうひとつは炊きたてごはんでコース料理の〆を飾る、ご飯土鍋です。

このふたつの土鍋をご家庭でもお使いいただけるよう、通販サイトと一部店舗で販売する運びとなりました。それを機に、土鍋のふるさとである佐賀・有田の安楽窯の末村 安孝さんを、茅乃舎商品開発担当の宮﨑が訪ねました。

ときめきと驚きがある土鍋を

出迎えてくれた末村さん

宮﨑

「御料理 茅乃舎」の土鍋には「和」でくくれない存在感を感じています。印象的なデザインですが多様な食卓になじみ、定番ながら今見ても新しさを感じられます。

末村

私も15年以上製作を続けていますが、不思議と飽きません。つくっていて未だに楽しい。それだけこの土鍋には魅力があるということでしょう。

宮﨑

「御料理 茅乃舎」開業当時、オリジナルの土鍋をつくるにあたって、なにかオーダーがありましたか?

末村

「ほかにない土鍋をつくってほしい」がオーダーでした。お料理、空間、食器類、サービスにいたるまで、「茅乃舎」の世界観を丸ごとつくりあげ、お客様にときめきや驚きを届けたいという気概を私たちも感じていました。

手前が「十穀鍋」をお出しする土鍋。奥がごはん土鍋

宮﨑

その想いは今にもつながっています。開発においてご苦労された点はありますか?

末村

納品まで3ヶ月という時間との戦いもあり、持っている技術と新しいアイデアのバランスを取るのが大変でしたね。当時の私はまだ20代でしたので、無事完成させるのに必死でした。

宮﨑

3ヶ月とはご苦労をおかけしました!

末村

また斬新なデザインを提案する一方で、飲食店に必要な丈夫さを損なわないように心がけました。強度は安楽窯の土鍋の最大の特長です。見た目は個性的でも取り扱いのしやすさは譲れません。

独自配合の粘土でとことん丈夫に

型に粘土をセット。ヘラを降ろし成形。

宮﨑

安楽窯で土鍋ができあがる過程を教えていただけますか? 練り上げた粘土は型に入れるのですね。

末村

そうです。型ごとろくろにかけて「ヘラづくり」という手法で成形します。

ヘラで削りながら成形します

宮﨑

この粘土も安楽窯でつくられるのですよね?

末村

はい。粘土に砂状の土と品質にこだわり抜いたペタライトを混ぜ込み、独自の調合で混ぜ合わせます。ペタライトの量はかなり多めではないでしょうか。

左の白い粉がペタライト、右のベージュ色が粘土

宮﨑

だから硬くて丈夫なんですね!

末村

ただ、すべて天然の素材で高品質のものばかりなので、価格にも反映されてしまい恐縮です。

宮﨑

確かに安価ではありません。しかしヒビが入りにくく、長く使い続けられる丈夫な土鍋です。価格にふさわしい価値を感じていただけるとうれしいです。

職人の勘が生きる、持ち手の接着

職人さんの手仕事で持ち手を付けます

末村

土鍋の蓋と持ち手は同じ材質で別々に成形し、お互いがほどよく乾燥するタイミングを図り、職人が手作業で接着します。

宮﨑

接着する場所を計測するなどはしないのですね。

末村

そこは職人の勘で、きちんと蓋の真ん中に接着できます。接着剤は粘土を水で薄めたものです。その濃度や量は温度・湿度で日々変更するため、こちらも職人の勘に頼っています。

蓋と取っ手の乾燥具合が違うと、焼いた時に取れてしまうことも
土鍋の持ち手にはあえて職人の指の跡を残します

繊細な釉薬の配合

釉薬につけるのも手作業です

末村

成形後の土鍋は8時間素焼きをし、その後、釉薬をかけます。

宮﨑

この釉薬からあの独特な色合いが生まれるのですね。なんと表現すればよいのか…。

末村

つやつやでもマットでもない。個人的には墨の黒色だと思っています。開発当時、黒色の食器は漆器などのつやありが主流でした。そのイメージを壊したかったのです。

自分の眼で確かめ、ていねいに修正します

宮﨑

ごはん土鍋は優しく微妙な色合いで、こちらも何色と呼べばいいのか迷います。黄色か茶色か、灰色や緑色もうっすらと…。

末村

焼き物の世界では「伊羅保(いらぼ)釉」と呼ばれています。私のイメージでは体を守り、整えてくれる薬草や薬膳を連想させる色。「御料理 茅乃舎」の茅葺屋根の色も思い浮かびます。滋味あふれる食卓によく似合う土鍋ですよね。

末村さんが表現される色について語り合いました

超高温の焼きで一生ものの土鍋に

窯入れ前、土鍋を輪の上に載せ、歪みを防ぎます

末村

いよいよ焼成の行程です。まず耐火素材でできた輪の上に土鍋をセットします。これをガス釜に入れて1260℃で20時間焼き上げ、さらに強度を高めます。通常の土鍋は1200℃で10時間程度ですから、倍の時間ですね。

1260℃まで温度が上がるガス窯

宮﨑

特別感あふれる見た目ですが、ご家庭で日々使い込んでも丈夫で長持ちする。10年単位で愛用できる。そんな土鍋の姿が見えてきました。

あれこれ気軽に使ってほしい

和洋どちらの食卓にも似合います

末村

鍋料理以外にも使い勝手のいい土鍋です。シンプルなかぼちゃの煮物も土鍋のまま食卓に出せば、ぱっと場が華やぎますよ。

宮﨑

私はこの土鍋で“焼く”を楽しみたいです。遠赤外線効果でお肉もふっくら焼けるとか。土鍋の楽しみ方の幅がより広がりますね。

油を軽く引き、土鍋焼きステーキを

末村

今回は「御料理 茅乃舎」という原点を今一度見つめたい茅乃舎さんと、この土鍋の素晴らしさをもっと多くの方に広めたいという安楽窯の想いが重なりましたね。

宮﨑

ご自宅でつくる食事へのこだわりもますます深まる今、たくさんの方にぜひともご愛用していただきたい土鍋となりました。これからも共によい土鍋をお届けしていきましょう。

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安楽窯

佐賀・有田で昭和13年に創業した末村窯業有限会社が母体の窯元。末村窯業は磁器を焼くための器「ボシ」や焼成時の歪みを防止するための土台「ハマ」の製造を手がけた。昭和46年、それまで培ってきた耐火物の技術をもちいて「安楽窯」ブランドとして土鍋の生産を開始。その高い耐久性とデザイン性の高さを軸に、食材のおいしさを引き出す土鍋調理を広めている。

後編では、御料理茅乃舎の料理長に土鍋レシピを教わりました。

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最新の情報は久原本家通販サイトにてご確認ください。

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