山中漆器〜前編〜 山中の伝統技法、漆器のある暮らし

日々の食卓や台所で使いたいのは、長く使えるもの。使い続けるうちに手に馴染み、少しずつ使いやすく、愛着が湧き上がってくるもの。茅乃舎が共感を覚えるのも、そういうものです。

今回は、金沢からクルマで1時間ほどの山中温泉へ。自然豊かな渓谷に囲まれ、四季の移ろいをしっかりと感じられるこの地で作られる、日用の漆器。1500年代後期に越前の国から伝わった挽物技術をルーツとする、山中漆器の産地を訪ねました。

木地の質が視える「拭き漆」とは?

松尾芭蕉が「奥の細道」の途中で立ち寄ったと言われる石川県加賀市にある山中温泉。山中漆器は、木地師の集団移住によって挽物技術がこの地にもたらされたことに始まり、湯治客の土産物として広まった。

木地加工技術に秀でた山中漆器は、石川県に3つある漆器産地のなかでも「木地の山中」と呼ばれる。調度品や高級品ではなく日常使いの漆器を、今も多く作っている。

石川県加賀市。表情豊かな四季の風景が広がる、渓谷に囲まれた山中温泉が山中漆器の産地だ。

山中漆器の木地加工技術の高さと関係する「塗り」の技法が、「拭き漆」だ。漆器づくりの最終工程である「塗り」において、漆を木地に塗り、余分な漆を拭き取って、乾燥させて仕上げる拭き漆は、木地の木目がそのまま器の模様となる。つまり、拭き漆で仕上げる漆器においては、木地の良し悪しが器の出来に大きく影響する。

漆を塗って余分な漆を拭き取り、乾燥させる「拭き漆」。木目がそのまま模様となるため、高い木地加工技術が求められる。
拭き漆を施した木地は、10℃以上、湿度70%前後に保った棚に入れて、1日ほど乾燥させる。拭き漆は通常、この工程を5〜6度繰り返す。

「拭き漆は、木地の完成度が高くなければ成立しません」と語るのは、我戸幹男商店(がとみきおしょうてん)の我戸正幸さん。我戸幹男商店は、1908年に我戸木工所として創業し、現在は漆器の企画や販売を手掛ける山中漆器のブランド。ろくろ挽きによる木地の木目を生かした漆器や、伝統技法と現代的なプロダクトデザインを融合させた独自性の高いモノづくりで知られている。

我戸さんは、「うちで扱う木地は、ちょっとふしが入っていても不良品。凹みやサンドペーパーの筋が入っても商品になりません」と続ける。

我戸幹男商店の4代目、我戸正幸さん。2004年にUターンし、2013年に代表取締役社長に。
我戸幹男商店の商品。手前の器はケヤキ素材の「AEKA」シリーズ。奥の酒器はミズメ素材の「TOHKA」シリーズ。木地加工技術の高さが伺える繊細なフォルム。

自重でスーッと閉まる高精度な茶筒の蓋

我戸幹男商店で扱う汁椀の形状には、大きく3種類ある。

飲み口がまっすぐで口当たりが良い「仙才(せんさい)」は、汁椀として最もオーソドックスな形。口が反った「羽反(はそり)」は、口当たりに優れ、器同士の重なりも良い。飲み口がすぼまった「布袋(ほてい)」は、コロンとした愛嬌あるフォルムだが、口当たりと重なりの面ではほかの2つにやや劣る。

我戸さんは、「見た目と使い勝手のバランスがいいのは、はそりですかね。最近は、高台と本体がつながったような、一体形状の器も多いです」と言う。

山中漆器は、基本工程の「木地挽き」「下地」「塗り」「蒔絵」など、それぞれ専門の職人が担当する分業制。木地挽きの工程における「縦(たて)木取り」も、山中漆器ならでは。輪切りにした木材から木地を削り出す縦木取りによって、歪みなどの変形が少なく薄口の漆器ができあがるのが強みだ。

我戸幹男商店の木地作りを多数手掛ける木地挽きの工房。山中漆器は、各工程を専門の職人が担当する分業制。木地挽きは木地師が行う。
輪切りにした木材に印を付けて木取りを行う。山中漆器の木取りは、ほかの産地では見られない「縦木取り」。

横方向の力に強く、木地の歪みが出にくい縦木取りは、椀やカップといった深さがある漆器作りに向いている。さらに縦木取りは、茶筒など、蓋とセットになった合口物に高い精度をもたらす。例えば、我戸幹男商店の茶筒は蓋を締める際、筒本体に乗せた蓋が自重でスーッと閉まる。

一方、縦木取りの木地は水を通してしまうため、そのままでは器などには使えない。なぜなら、縦木取りの木材は、木地の縦方向に水分や樹液の通り道である導管が入るためだ。そこで、柿渋と砥(と)の粉を混ぜた目止め剤を木地に塗る「メスリ」という工程で導管を埋める。我戸さんは、「漆は硬化剤であり、防腐剤であり接着剤です」と言う。

縦木取りで木取りした後、外側のみ荒挽きを施した木地。
荒挽きした木地を積み上げて、1〜2ヶ月ほど乾燥させる。このあと、中荒挽き、仕上げ挽きと工程が進む。
ろくろや旋盤に木地を取り付け、椀を挽く。山中漆器の産地で使われるろくろは、縦木取りの木地加工に適した横座式。

丁寧な手仕事が紡ぐ漆器のある暮らし

歪みを抑え、木地に高い精度をもたらす縦木取りは、木地が透けるほど薄く挽く「うすびき」という技法や、カンナや小刀で木地に装飾を付ける「加飾挽き(かしょくびき)」といった技法にもつながっている。

山中漆器の加飾挽きは合わせて40種類以上あるともいわれ、円状と渦状に2分類ができる。削り出しによって木地にさまざまな模様を描く加飾挽きは、木地に多彩な表情をもたらすだけでなく、その凹凸によって持つ際の滑り止めとしても機能する。

「加飾挽きには、千筋や平筋、稲穂筋などさまざまなタイプがあって、これが山中漆器の大きな武器。この場所で培われた技術を、これからも伝えていきたいと思います」と我戸さん。

我戸幹男商店で人気なのは、縦木取り特有の精度を備えた合口物や、うすびき、加飾挽きといった、山中漆器ならではの技法を用いた漆器だという。確かに、どれも手仕事の繊細さや、独特の存在感が伺える。それでいて、重厚すぎたり、仰々しすぎたりということもない、まさに日用の漆器だ。

この地に根付き、受け継がれた丁寧な手仕事を紡いで、現代の日々の暮らしに届ける。手に取ってみると、手触りのよさや手に馴染む佇まいから、漆器のある生活のイメージが自然と湧いてくる。

ろくろとカンナや小刀を使って、木地に装飾を付けていく加飾挽き。
工房の壁には、木地師が自作した専用のカンナや小刀が並んでいる。

〜後編 わたしたちの好きなモノ〜へ続きます。

山中漆器〜後編〜 わたしたちの好きなモノ

※この記事は2021年に取材・作成したものです
※茅乃舎各店、および久原本家通販サイトでのしるし椀のお取扱いは終了いたしました

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