東屋/擂鉢 前編

2020.8.16

商品・道具

三重県伊賀市 耕房窯 製

擂ってよし 盛ってよし

擂鉢に胡麻を入れ、擂粉木を回す。ゴリゴリッという鈍い音の合間に、プチプチッと小気味良い音が弾ける。回す手が軽くなるにつれて漂う、香ばしい豊かな香りがなんともたまらない。「便利さだけを追い求めるのではなく、素材の変化をゆっくりと肌で感じる時間も大切にしたい」。そんな茅乃舎の想いに応えてくれる、まさに理想的な擂鉢と出会った。

素材を生かした、伝統の手仕事を現代に

擂鉢を手がけるのは、日本各地の手工業者と協働して暮らしの道具を提案する「東屋(あづまや)」。国産の天然素材と、熟練した職人の技術・製法で、日々の台所用品や日用品、器などを各地の職人と共に生み出し、日本の伝統的なものづくりを今へ伝えている。デザインや形は、今の生活に合わせて変えているものの、素材や手仕事の部分は先人の職人たちの技術に倣う。特に、素材は環境や使う人の身体に負担をかけないものだけを厳選し、使い捨てではなく、何度も直しながら使えるもの、使い終われば自然に還ることができるものであることが、ものづくりする上での大事な条件であるという。素材の本質を見つめ、日本の財産ともいえる手仕事を真摯に伝えようとするその姿勢は、「素材の良さを大切にしたい」と願う茅乃舎と相通じるものがある。

伊賀の土と黒飴釉を使用。シンプルながらもその存在感は抜群。

ぜひ一緒にプロダクトづくりに取り組みたいと願っていた矢先に、出会ったのがこの擂鉢だった。機能性と器としての美しさを併せ持つ存在感のある佇まい。擂粉木(すりこぎ)の動きをしっかりと受け止めてくれるどっしりとした重厚感と、繊細ながら丈夫な櫛目。そして、艶やかな黒色は、盛り鉢としても料理の美味しさを引き立ててくれる。

製造されているのは、東屋で扱う伊賀焼の器や土鍋などを手掛けている三重県伊賀市「耕房窯(こうぼうがま)」の柴本武誌さん。轆轤びきの美しいシルエットと黒い釉薬の照り、細かな造形のバランスは柴本さんでしか生み出すことはできないと、東屋が絶対的な信頼を寄せる。

手仕事で施された櫛目は、胡麻や味噌、豆腐などを滑らかに擂り潰し、口当たり良く仕上げてくれる。

伊賀焼の風格はそのままに、擂鉢の機能を追求

三重県北西部に位置し、伊賀忍者の里として知られる伊賀市。かつて城下町として栄えた中心部は今でも歴史的な街並みを残し、周囲は深い山々に囲まれている。良質な陶土と薪に適した赤松の森林という、陶器づくりに欠かす事のできない資源が豊富にあったことから、鎌倉時代より焼き物の里として発展してきた。

伊賀上野から滋賀県信楽へと抜ける国道422号線沿いにある、四方を森に囲まれた山里が伊賀焼の産地・丸柱。そこから少々険しい山道を登った先に、耕房窯が現れる。

伊賀焼は、土鍋に代表される無骨で素朴な土の風合いが魅力。かつて琵琶湖の底だったとされる伊賀の土は、3〜400万年も前に生息していたプランクトンや炭化した植物などの有機物を多く含み、高温で焼くことでそれらが燃え細かな気泡を作る。そのため、耐火度が非常に高く保温性に優れた、丈夫な焼き物ができるのだ。ただ、土鍋に使われているままの土では、擂鉢作りには向いていないという。土の粒子が粗いため細かい櫛目を入れることが難しく、擂粉木の摩擦に負けてしまうのだ。

伊賀焼らしい土味は保ったまま、擂鉢としての機能も欲しい。そこで伊賀の土をベースにしながらも、しっかり焼き締まる土を絶妙な塩梅で混ぜることで、櫛目の山が欠けにくい強度を実現した。擂鉢の大きさに合わせ、土の配合や粘土の硬さも微妙に変えているという。
擂鉢の中心部から放射状に施された櫛目は、浅く細い。凸凹の山が大きすぎると、硬い素材を擂った時に櫛目が欠けやすくなり、間隔が広すぎると櫛目の間に食材が詰まり無駄が出てしまう。そこで、柴本さんは自作で櫛を作り、細かな櫛目を入れている。

器を作る時はある程度の量を一気に轆轤でひいて乾かせばいいが、擂鉢の場合そうはいかない。生地が乾く前に櫛目を入れないとしっかりと溝ができないため、轆轤をひいては櫛目を入れる工程を地道に繰り返していく。

伊賀土の特性を生かしながら、土の配合や柔らかさ、櫛目の間隔のバランスを考える。長年伊賀焼と向き合い、熱心に試行錯誤を重ねてきた柴本さんだからこそ、この擂鉢を作り出すことができたのだろう。さらにその櫛目の部分にも釉薬を施すことで、食材が残りにくく、味や匂いも染み込みにくくなっている。この釉薬ももちろん、伊賀で採れる灰や長石が原料だ。

擂鉢の縁に沿うように溝を掘り、注ぎ口以外から液体がこぼれないような細工も心憎い。二段になった注ぎ口は、液体の切れが良く、注ぐ姿にも惚れ惚れとしてしまう。

擂鉢を勢いよく傾けても、具材が縁から溢れることなく、注ぎ口へと誘われる。

擂鉢のサイズ選び、相棒として最適な擂粉木とは

使いやすさへの工夫が随所に施された東屋の擂鉢の中から、今回、茅乃舎で取り扱うのは、3寸、5寸、6寸、8寸の4種。
一番小さな3寸は、粒山椒などの香辛料を挽いて香りを立たせたり、くるみや落花生、胡麻などを擂ったりして、薬味鉢として使いやすいサイズ。3、4個ほど揃えて、豆皿のようにずらりと並べても格好がいい。
自家製のタレやドレッシングを作る時は、3寸では液体が溢れてしまうので5寸があるといい。胡麻和え、白和えなどの料理に活用しやすいのは6寸。胡麻を擂って青菜を和え、そのまま食卓へ出すことができる。

意外と使い勝手が良いのが、8寸だ。擂鉢の中でじゃがいもを擂り潰して他の具材を加えサラダを作るなど、ボウルとしても盛り鉢としても役目も果たしてくれる。麦とろや冷汁など、液体の多い料理の時も8寸があれば安心だ。

左から3寸、5寸、6寸、8寸。

擂鉢選びと同じくらい重要なのが、相棒となる擂粉木選び。今でこそ、いろいろな種類の木が使われているが、昔から擂粉木として使われていたのは、堅くて摩耗しにくい山椒の木である。擂っていくうちに、少しばかり木の成分も削れていくだろうから、胃腸薬としても重宝されている山椒を使うのは理にかなっていたのだろう。
東屋の擂粉木は、日本有数の山椒の産地である和歌山県有田川町のもの。擂粉木を作るためにわざわざ木を切り倒すのではなく、実をつけなくなってしまった山椒の木や、剪定した時に出た枝を使って作られている。木の幹や枝そのままの姿に、擂鉢との当たりがよく、手に馴染むよう形を整えただけ。良質な素材を生かし、コーティングなどは一切施していない。

持ち手の先に通してある紐は、京都府宇治市「昇苑くみひも」のもの。見た目の可愛らしさだけでなく、引っ掛けて乾かしたり、収納したりと実用性も十分。

手仕事で丁寧につくられた擂鉢と擂粉木で、ゆっくりと素材を擂り上げるうちに不思議と心が落ち着いてくる。胡麻や黒胡椒を擂るもいいし、ニンニクを潰すだけでもいい。そのちょっとしたひと手間が、いつもの料理に新鮮な味わいを与えてくれる。そして、調理道具としてだけではなく、盛り鉢にしたり、時にはラーメン鉢にしたりと、それぞれの生活スタイルに合わせてこの擂鉢を愉しんでほしい。

3寸に自家製ふりかけ、5寸には青菜のごま和えを入れて。食卓の良いアクセントになってくれる。

後編では、擂鉢をつかったお料理をご紹介します。

東屋/擂鉢 後編

東屋さんのホームページ。
https://www.azmaya.co.jp/​


ご紹介の東屋の擂鉢は、茅乃舎西宮ガーデンズ店にてお取り扱いしております。商品のご配送も承っております。詳細は直接店舗へご連絡ください。

※単品でのご案内です。セットでのご案内ではございませんので予めご了承ください。
<写真左から>
擂鉢 3寸 : φ95×H40mm / 約100g ¥3,630
擂粉木 3寸用:長さ90mm / 10g ¥880

擂鉢 5寸 : φ150×60mm / 約380g ¥4,070
擂粉木 5寸用:長さ165mm / 60g ¥1,760

擂鉢 6寸 : φ180×80mm / 約720g ¥5,060
擂粉木 6寸用:長さ210mm / 85g ¥2,200

擂鉢 8寸 : φ240×95mm / 約1350g ¥10,230
擂粉木 8寸用:長さ300mm / 160g ¥4,400

※すべて税込金額

<素材>
擂鉢 伊賀黄土、黒飴釉
擂粉木 山椒(和歌山県有田川町)、絹

ご購入の前にご確認いただきたいこと:

一つひとつ手づくりのため若干の個体差がございます。また、擂鉢は、釉薬のムラや小さな黒点、ピンホール、材料の小さな石が見られる場合がございます。擂粉木は、木口のひび割れや紐穴にカケがみられる場合がございます。手仕事の風合いとしてお楽しみいただければと思います。

店舗の詳細はこちら
西宮ガーデンズ店
https://www.kayanoya.com/shop/nishinomiya-gardens/

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