糸島農家「おき農園」の大根と、冬の大根レシピ。

福岡の糸島へ。冬の大根を求めて

沖さんとの出会いは、7年前のことでした。出会った頃は、若手農家さんとして就農したて。当時、20代の若い方が前向きに揚々と農業に取り組む姿に、希望と言うとありふれますが、新しくさわやかな風を感じたことを記憶しています。その頃から沖さんは、ただ野菜をつくる若い農家さんというだけでなく、自分が描く生き方や理想のカタチ、新しい何かをクリエイティブしていく人、そういうことを感じさせてくれる方でした。

「おき農園」の沖祐輔さん

久しぶりの再会を楽しみに福岡県・糸島を訪ねたのは、昨年の12月のこと。今はご夫婦で二人三脚の農業をされています。沖さんの畑は、耳を澄ませば波音が聞こえてきそうな糸島の海沿いにありました。

地中に深く深くもぐる「おでん大根」。

「僕たちは、土に深くもぐって育つ“おでん大根”を育てています。おでん大根は、水分が多く甘くて、煮込んだときに煮くずれがしにくい品種。育てている農家さんは少ないのですが、僕たちはこの大根が大好きで」と沖さん。

もちろん、おでん以外に煮物にもおいしい。

結婚するまでは農業とは無縁だったという奥さまの恭代さんも、今では心強いパートナー。お子さんが小さい時は、野菜箱に子どもを乗せて子守りしながら畑に頻繁に通うほど、“自分が売るものをちゃんと知っておく”ことを大切にされています。

夫に学びながらという恭代さんも、知識が豊富。

恭代さんは大根の甘さを、こう分析。「この畑では、大根も人参も本当に甘く育つんです。ここは、山間部の畑に比べて寒暖差も冷えも少ない海沿いですし、保水力も弱い土。なのに、なんでこんなに甘くなるのかなぁ〜?と私たちも不思議なんですが、きっと野菜たちが環境に負けず、自然と自分の中の水分を糖に変えているんじゃないかなと思っています」


沖さんのこだわりは、ふかくふか〜く土を掘ること。大根がしっかりと根を張れるように、60cm程まで耕します。植物にとって根は土台。どれだけ深く地中に根を張るかが大事で、地中ふかく伸びることができれば、実も健全に育ちます。

育てる自分たちも、楽しくあること。

「いままで有機農法も無農薬も、炭素循環型農法もいろいろなチャレンジをしてきました。でも、この砂地では有機の肥料が土にとどまらず、すぐに流れてしまう。だから、有機農法は難しかったんです。今の畑でどうできるかを考えた時、無闇やたらに農薬や化学肥料を使わず、最低限の肥料や農薬と機械の力を借りて野菜を栽培することにしました。つくったものを自信を持ってお客様に伝えられ、僕たち自身も無理なく楽しくできる一番納得いくやり方が今の栽培方法なんです。もしこれから理想の形が変われば、それに合わせて僕たちの農業も変わっていくと思います」

色大根は、レストランで使われることが多い。

紫、緑、赤、黒など、辛味がなく甘みのある色ものの大根も多く育てています。少量多品種で年間100種の野菜をつくるのが、今の沖さんのスタイル。東京のシェフや関東の農家さんから影響を受け、自分たちがつくってみたいと思う野菜を選んで育てることにしています。

中が赤い紅芯大根。フルーツのような甘さに驚きました。

農家とお客さんが繋がる。“Katsuki Vege Stand & Oki Labo”を設立。

レストランや地域の直売所への出荷のほかにも、お客さまと直接顔を合わせて繋がれる自分たちの直売所「Katsuki Vege Stand」が畑の近くにありました。ここは、たくさんの巡り合わせによって、思いがけず生まれた場所なのだそう。

「Katsuki Vege Stand & Oki Labo」。土日のみオープン。

はじまりは、「この場所、使わん?」という沖さんの農業の師匠の一言でした。使い手がなくなり、放置される“貨車”を再利用することに。すると、親交のあった福岡大学・農業サークル「agri+(アグリプラス)」の学生たちが「僕たちがデザインをやりましょう!資金もクラウドファンディングで集めましょう!」と力を貸してくれたのです。それからは、あれよあれよと事が運び、ご夫婦が未来に描いていたことが、ずっと早くものすごいスピードで形になっていきました。

恭代さん手づくりの野菜通信。レシピから日常のささいなことまで、ニュースはいろいろ。

出逢いの運がここまで導いてくれた。

「僕はいつもこうしたい、ああしたいと口に出しています。これまでも、まわりの人に助けてもらってここまでやってきました。人の運だけは持っていますね」と照れ笑いの沖さん。「いつかお店を持ちたいという私たちの夢はずっと先だと思っていたら、巡り合わせがきたんです」と恭代さん。

恭代さんは、こうも語ってくれました。「私は農業を、女性が選択する職業にしたいと思っているんです。今は不透明な部分も多いと思いますが、農業をしている人たちが楽しそうだったらきっと、私も農業をやってみたいと思う女性も増えるんじゃないかな。そういう気持ちで畑に出ています」

背伸びせず、自分たちの歩幅で。
沖さんご夫婦の姿勢を感じた時、野菜づくりへの信頼も生まれてくるような気がしました。

冬本番。おいしい大根を食べたくなります。

おいしい大根でつくりましょう。
茅乃舎だしで。大根の照り焼き丼


[材料](2人分)

大根

300g

三つ葉(軸の部分のみ)

1/2束

すり白ごま

大さじ2

A

800ml

B

醤油

大さじ1と1/2

砂糖

大さじ1

小さじ1

ごはん

適量

薄力粉

適量

柚子胡椒

適量

お好みの油

大さじ3

[つくり方]

  1. 大根は皮を厚めに剥き、厚さ1.5cmの輪切りを6枚つくる。深さ3mm程の切れ目を十字に入れる。
  2. ①を沸騰した湯に入れて下茹でする。切れ目が少し開き、透明感が出てきたら引き上げる。
  3. 鍋に[A]を入れ火にかけ、沸騰後、中火で2〜3分煮出す。
  4. 別鍋に②を入れ、③をひたひたに入れて中火で煮る。(残った③は⑦で使用します)
  5. ④の汁けがなくなったら鍋から出し、表面に薄く薄力粉をつけてフライパンに油を熱し焼く。
  6. 焼いた⑤を一度取り出して、[B]と⑤を入れて強火にかけ、少し焦げ目がつく程度に焼き絡める。
  7. 丼にごはんを入れて⑥をのせ、小口切りにした三つ葉とすり白ごまを散らし、温めた③の残りをかける。お好みで柚子胡椒を添える。

茅乃舎だしのご購入はこちら
https://www.kubara.jp/kayanoya/dashi/kayanoyadashi/570000/

「おき農園」では、個人宅配も行われています。
おき農園
https://okifarm-itoshima.com/
instagram
https://www.instagram.com/oki.farm.itoshima/

Katsuki Vege Stand & Oki Labo
営業時間:土日のみ 10:00~16:00 
福岡県糸島市志摩久家2537-1

旬のお料理や季節限定品などをご紹介する茅乃舎の季刊誌「てまひま」をWEB上でご覧いただけます。
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