3月某日。木々は新芽の準備を始め、春の気配を感じる頃になりました。「レストラン 茅乃舎」の料理長尾﨑は、そんな生命の息吹に心躍らせています。「私たち料理人にとっても、春は喜びの季節。自然から直に受け取れる恵み、“山菜”を摘み取って調理すれば、素材への想いも一層深まります」。

今回は春の目覚まし、山菜のお話です。

春の訪れを告げる山菜。3〜5月には様々な種類が収穫できます。

尾﨑が定期的に訪れている場所があります。福岡市内から車で1時間ほどの距離にある飯塚市の里山。“長野おばあちゃん“と慕う農家の長野路代さんを訪ね、昔ながらの食生活やレシピを習い、一緒に山菜採りに出掛けることも。この日もカゴを手に山のふもとへ。

自生する植物で食用となるものが「山菜」です。「春には苦味を盛れ」というように、独特の苦味が冬に栄養を蓄えていた体を目覚めさせてくれます。特に芽吹きの頃の山菜は栄養がいっぱいです。

豊かな自然が季節の移ろいを教えてくれます。

前日降った雨の名残か、キラキラ雨露をまとったフキノトウやノカンゾウ、三つ葉、ユキノシタがあちこちに。川辺にはクレソンやヨモギも茂っています。

山菜取りに同行してくださった長野さん。

「これも食べれるのよ」と長野さんが指さしたのは、ヤブツバキ。美しいその花びらも摘んで持ち帰りました。「つくしを見つけると春が来たなと嬉しくなります」。尾﨑の手にはグンと伸びたつくしも一杯です。

たくさんの山菜が収穫できました。自生のクレソンは味が濃い!

さあ、次は今日の収穫を持ってレストランへ。家庭でも簡単にできる山菜調理のポイントを習います。

「山菜は水につけたり、重曹で煮たり、下処理が手間に感じるかもしれませんが、苦味と油は相性が良いので、天ぷらにすれば下処理はほとんど必要ありません。土や汚れはしっかり洗い流してくださいね。葉物はお浸しにしましょう」。

自生しているものなので、水洗いは入念に。

山菜の天ぷら

揚げることで苦味が和らぎます。独特の風味を味わうため、塩でシンプルに熱々をどうぞ。

フキノトウ、ヨモギ、ユキノシタ、ノカンゾウ、ヤブツバキの花びらを揚げました。
調理のポイント

上新粉、小麦粉、水で天ぷらの衣を作ります(市販のものでも可)。手で掴むとスーッと糸を引くように垂れるくらいの緩さがポイントです。素材に水分が多いときは衣を厚めに。
葉物は薄衣にして、茎を持って油につけたら少し揺らすことで葉が広がり、パリッと揚がります。170度くらいが適温です。

クレソンのお浸し

クレソンの爽やかな辛み、香り、食感には「茅乃舎」基本だしの優しい味わいがぴったりです。

この日は三つ葉も一緒にお浸しに。胡麻を足しても。
調理のポイント

だし10:薄口醤油1:みりん1の比率でお浸しだしを作ります。次に沸騰した湯に塩を少々入れて、クレソンをサッと茹でます。
茹でた後すぐに氷水で冷やすことで、シャキッと色よく仕上がります。食べやすい大きさにカットしてお浸しだしにしばらく漬ければ完成です。茹でてから切る方が水っぽくならず食感も生かせます。

つくしの砂糖菓子

つくしは卵とじやお浸しが定番ですが、今回はスイーツを作ります。長野さん直伝の素朴な美味しさです。

抹茶のようなほろ苦さと甘みが絶妙です。
調理のポイント

つくしは袴を取ったものを100g用意します。フライパンにグラニュー糖(80〜100g)を入れ、水大さじ1を加えて火にかけます。グラニュー糖が溶けたらつくしを加えて中火で煮詰めていきます。
つくしから水分が出てくるので箸で混ぜ、グツグツと泡立ち始めたら、火を弱めます。しばらく混ぜ続け、粉状になったら完成。ほぐれるうちに、つくしを真っ直ぐに伸ばすと見栄え良く仕上がります。
火が強すぎるとカラメル状になるので注意。根気よく混ぜ続けるのがポイントです。

自生しているところを目にすると美味しさもひとしおですが、もちろん市販のもので調理しても。
夏に向けて体を目覚めさせてくれる山菜をたっぷりいただきましょう。

レストラン 茅乃舎 料理長 尾﨑 雄二

福岡の山深い里に佇む茅葺き屋根の「レストラン茅乃舎」でオープン当初より腕を振るう。和食の道20年以上の経験と知識で旬の食材を選び抜き、手間ひまかけて滋味に富む味わいを探求。